竜の学校は山の上
竜の学校は山の上 九井諒子作品集竜の学校は山の上 九井諒子作品集
(2011/03/30)
九井 諒子

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先日絶賛した「竜のかわいい七つの子」の九井諒子さんのデビュー作品集。

WEB上で公開していた作品と同人誌で発表した作品に描き下ろし2編を加えた全9編。


「帰郷」「魔王」「魔王城問題」「支配」「代紺山の嫁探し」「現代神話」「進学天使」「竜の学校は山の上」「くず」


「帰郷」から「支配」までは、勇者や魔王といった典型的なRPGの世界観をベースにしたパロディである。

「帰郷」と「魔王城問題」は、勇者が魔王を倒したその後のお話で、「魔王」は「美女と野獣」の別バージョン、「支配」は視点は違うものの これもやはり一種のRPG?



主を失い、その役割を終えた魔王城。

王国は、その魔王城を交易の中継地点とすべく再利用を図るが、侵入者を排除するためだけに作られた城には いたる所に罠が仕掛けられ、負傷者が後を絶たない。

加えて、周辺の土地は土が固くやせていて、耕すのも容易ではない。

近くには毒の沼地が広がり、その毒を含んだ風によって身体を壊す者も出始めた。

魔王を倒した勇者は、城の再利用には非協力的で、酒浸りの怠惰な日々を送っている。

ついに王から退却令が下るが、なぜか領主の娘だけは 病に苦しみつつも 頑なに この城を離れたくないと主張するのだった。(魔王城問題)




勇者が失ったものと引き換えに、人々が得たもの。

それを返そうとした少女。

失ったものは戻らないから、せめて自分にできる精一杯を。

手放しのハッピーエンドではないけれど、眼下には確かに希望が広がっている。

最後の2ページが素晴らしい。

というか、この作者はどの作品においても風呂敷のたたみ方が美しい。




むかしむかし、貧しい村の村長が、村の若者に女神を娶らせ 福を招こうと考えた。

村長の娘・おみつだけは「それは人柱と同じだ」と反対するも、聞く耳持たず。

身寄りのない権平という若者に目をつけた村長は、権平を連れて 嫁に来てくれそうな女神を訪ね歩く。

火の神には追い返され、水の神は了承してくれたものの、貧しい山懐の村では器が足りず。

ようやく豊穣の神が、娘の花姫を遣わすと約束してくれたが…(代紺山の嫁探し)




前の4編とはうってかわって、日本昔話風のファンタジー。

恐ろしくも美しい女神たちの造形だけでも一見の価値はあるが、お話ももちろん面白い。

途中でなんとなく先が読めてくるのだが、それでも印象深いのは、「めでたしめでたし」とは違う視点の結末だから。


百、千の春が来ようとも


前のページとは一転、彼の心象風景を表すような黒い背景に、桜ばかりが艶やかに美しい。

本書の中で私のいちばん好きなお話。




猿人(ホモサピエンス)=我々と馬人(ケンタウロス)が共存する社会における一組の夫婦の日常と、二人種間に発生する雇用問題を平行して描く「現代神話」。

「もし地球上に猿人か馬人のどっちかしかいなかったら もっと暮らしやすかったんですかねえ」

というタナベくんの問いに、ミキさんが返した

「でも ちょっとだけ つまんなかったかもね」

という台詞が良い!



留学を勧められて悩む「天使」ならぬ翼の生えた少女と同級生の少年のお話「進学天使」。


理解のつもりが 足引っ張ってただけだって 気付いたから


傷つけるとわかっていて、言わずにいられなかった一言。

飛ぶ少女の視点で描かれた最後の5ページは鮮烈!



日本で唯一「竜学部」のある宇ノ宮大学で、現代は無用の長物と化してしまった竜の新たな活用方法を見出そうとする竜研究会の学生たちの日々。

表題作でもある「竜の学校は山の上」。

ただ好きなだけでは守れない、保護するための理由として何らかの利用価値を見つけなければ…ということで、彼らの模索は食用にまで及ぶ。

「ゲームの世界だったら活躍できてるんですけどね」には ちょっと笑った。

まさに、万病に効く竜の鱗のエピソードを同じ作者が別の短編で描いているのだから。

でも、ここはそんな物語とは別世界。

学生たちは諦めない。


なくしてしまったものを あれは役に立たなかったってことは言えるけど それは所詮 狐の葡萄

だから 簡単に捨てちゃいけないんだ



2冊目と同様、こちらも これでもかというほど多彩なお話を詰め込んだ、読み応えたっぷりの短編集だった。

この作者の作品が「地に足の着いたファンタジー」なんて言われるのは、細部まで徹底的に作りこまれた設定にあるんだろうなと思う。

「竜の学校は山の上」に登場するいろんな種類の竜(鳥型だのトカゲ型だの)の姿形、「退化した第二上腕の名残」なんて部位まで出てくるにつけ、本当にいても不思議はないように思えてくる。

翼を持つ少女が「飛んで行くより自転車こいだ方が圧倒的に楽だから!」と、その理由を並べ立てれば なるほどと思う。

飛ぶようにはできていない人の身体に羽根が生えてるんだから、そりゃそうだよなぁと。

鳥だって、飛ばなくてすむなら飛ばないっていうし。だから外敵のいない島なんかだと、鳥は飛ばなくなって羽根が退化するらしい。

ケンタウロスや天使という本来ならファンタジー世界の住人たちが、労働規制や進学といった 嫌になるほど現実的な問題に直面しているのだ。

読み手はいつの間にか、「進学天使」の少年同様、天使の目線で周りを見ては「飛ぶには狭すぎる」と思ってたりする。

「竜のかわいい七つの子」そして本書「竜の学校は山の上」と、久しぶりに本の中を旅してきたような贅沢な気分を味わえた。


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[2012/11/01 18:43] 九井諒子 | トラックバック(0) | コメント(2) | @
竜のかわいい七つの子
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(2012/10/15)
九井諒子

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作者の2冊目の作品集。

バラエティーに富んだ七話の短編で構成されている。

「竜の小塔」「人魚禁猟区」「わたしのかみさま」「狼は嘘をつかない」「金なし白祿」「子がかわいいと竜は鳴く」「犬谷家の人々」

これほど多彩なお話を一人で描いてしまうなんて!と驚きのラインナップである。

しかもどれも非常に質が高い。


リアルとファンタジーの匙加減が上手いからだろうけど、この本を読んだ後は いつもの散歩コースの海岸で人魚がひなたぼっこしているのを見てもフツーにスルーしてしまいそうな気がする。

それくらい、人魚や狼男といったファンタジー世界の住人たちが現実に融合しているものだから、ファンタジーを読んでいるような気がしないのだ。

例えば、第四話「狼は嘘をつかない」は、冒頭に育児エッセイ漫画を置くという手法を取っていて、うっかりWWSという病気が実在するかのような錯覚を覚える。

どの作品も何度も読み返してしまうほど面白いが、私は 第五話「金なし白祿」が特に気に入っている。



高川白祿は高名な絵師で、その筆の運びの巧みさは 描かれた生き物が紙を飛び出して出てきてしまうほど。

だから必ず片側の瞳だけは描かないのだという。

さて、この白祿、弟子に金を騙し取られ、残った金は妻に持ち逃げされ、その後は生活のためにほとんどの画材を売り払ってしまった。

手元に残ったものはといえば、墨に硯に筆が一本、そして誰が描いたものとも知れぬ己の絵の贋作。

その贋作の馬と男に目を描き入れ、実体化させた白祿は、自分の手伝いをさせるべく男に事情を話す。

すなわち、今まで自分が描いた 珍しい あるいは架空の生き物を実体化させて売り捌こうと。

そのために自分の絵を買った者たちを訪ね、片目を描き入れようとするのだが…




白祿に寄り添い、まるくなって眠る虎や獅子のかわいらしいこと!

日本画の虎と獅子なので、決して可愛い絵柄ではないのに、なぜか可愛く見えてしまう。

絵から出てきた男は単純な筆の線で描かれているにもかかわらず、表情豊かで愛嬌があり、白祿のために必死な様子が微笑ましい。

随所でふふっと笑わせてくれて、最後はほろりとさせられる。



かと思えば、第七話「犬谷家の人々」は、ひたすらバカバカしく終始笑いを誘われる ゆる~いコメディー。



犬谷家は超能力者の一族で、この度めでたく双子の姉妹ゆりかとありさが能力を開花させた。

そのお祝いにと叔父と叔母が犬谷家を訪れた日、どういう経緯か父が大学生探偵を連れて帰ってくる。

父はテレパシー、母はテレキネシス、祖父は空中浮遊、叔父はインビジブル、叔母はパイロキネシス、双子の姉ゆりかは次元を歪めるというド派手な能力を発揮する中、なぜか妹ありさの能力は「着ている服をパジャマに変える」という、おそろしくマイナーな上ピンポイント(パジャマって…)。

「こんな能力ならないほうがマシだった」とへこむ ありさだったが…




ありさの能力と、大学生探偵の名前が 銅田一耕助ってところで、おおよその雰囲気は想像できるかと(笑)



ほんとうに、買ってよかったと思えるお得な一冊だった。

次の新刊は来春発売とのこと、今から楽しみでたまらない。


前作はこちら↓
竜の学校は山の上 九井諒子作品集竜の学校は山の上 九井諒子作品集
(2011/03/30)
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[2012/10/24 16:56] 九井諒子 | トラックバック(0) | コメント(4) | @
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