天の町やなぎ通り―童話集「おかあさんの目」より




てんのまち やなぎどおり 四ちょうめ十一ばん
しらはま なみこさま




小さな町の小さな郵便局に届いた、こんな宛名の手紙。
封筒の裏には「まさお」としか書かれていません。


もう六通目になる、天の町ゆきの手紙を眺めて、局長さんは困っていました。
こんな町名は、ないのです。


その日届いた六通目に、はじめて差出人の住所が書かれているのを見て、局長さんは仕事帰りに返しに行くことにしました。
どう見ても子どもの字で書かれた手紙です。
早く、こんないたずらをやめさせなければと、思っていました。


その住所の、青い屋根の小さな家にいたのは、五歳くらいの男の子。
「白浜なみこ」というのは、その子のお母さんで、この前天の町に引っ越したと言うのです。
その住所は、お父さんに教えてもらったのだと。


局長さんは、思い出しました。
二か月ほど前の雨の日、この辺りに白と黒の花輪が飾ってあったことを。


「おかあちゃんちはね、川のそばなんだ。」と、楽しそうに話すちいさな男の子に、局長さんは手紙を返すことができず、逃げるようにその場を去りました。


初めてこのお話を読んだ小学生の頃、私は、「お母さんは引っ越した」と子どもに教えたお父さんを、気の毒に思うのと同じくらい、疑問にも思いました。
そんな嘘を教えて、それを信じてお母さんに宛てて、届くはずのない手紙を書く子どもを見るのは、余計に辛いのではないかと。


でも今は、お父さんは、本当はまさおくんに、お母さんが死んだことをちゃんと告げたのではないかと思っています。
ただ、幼い子どもに"死"を理解させることができなかったのだと。


死ぬのは、"無"になることではないから、もう会うことはできないけれど、どこかで自分たちを見ていてくれると信じているから、「お母さんは天の町にいる」と答えたのかもしれません。
そして、その家は天の川のそばだといい。
今の自分たちの家と同じ、青い屋根の家だといい。
その屋根が光っているといい。
そんな願いが、言葉となってあふれたのかもしれません。


返せなかった手紙は、大事な預かりものとなり、自転車を押しながら歩く局長さんの足取りを重くします。


「あああ、天の町、か。」


ため息とともに口をついて出たそのつぶやきは、突然吹いてきた風に散り、そして目の前には、星空まで続く琥珀色の道が。
柳の並木。透き通るような町並。小さな川。そして、青い屋根の家。


それは、多分、たった一度きりの奇跡。


帰り道、自転車のペダルを踏みながら、「よかったなあ、よかったなあ。」と何度もつぶやく局長さんに、私も心から「よかった」と思いました。


あまんきみこさんの本の中では「車のいろは空のいろ」と同じくらい、この童話集が好きで、図書室で借りた回数はこちらの方が多かったと思います。
表題作の「おかあさんの目」も大好きなのですが、この「天の町やなぎ通り」が、なぜかずっと忘れられませんでした。


私が昔読んだあかね書房版は絶版のようですが、嬉しいことにポプラ社からポケット文庫として同名の童話集が出ています。
収録作品を調べてみると、一編を除く七編はあかね書房版と同じでした。


そして来月には、あかね書房から、黒井健さんの絵で「天の町やなぎ通り」が絵本として刊行されるそうです。

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テーマ:児童文学・童話・絵本 - ジャンル:小説・文学

[2007/11/22 13:42] あまんきみこ | トラックバック(0) | コメント(3) | @
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