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ある母親の物語
アンデルセン童話集〈2〉アンデルセン童話集〈2〉
(2002/06/20)
H.C. アンデルセン

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昔の話です。
私は、保育園に預けられていたのですが、保育園が大嫌いでした。
毎日毎日、4時だったか4時半だったか、母が迎えにきてくれるのが待ち遠しくて仕方ありませんでした。


その頃の私は、家族といる時はおしゃべりなのに、一歩外へ出れば不思議なほど無口な子どもで、おとなばかりか同年代の子どもたちとさえ上手く話すことができませんでした。
覚えのないいたずらを自分のせいにされても「違う」の一言も言えないような有様で、我がことながら今思い出しても歯がゆいほどです。
そんなにも嫌だったのに、なぜ母に「行きたくない」と言えなかったのか。
弟も「朝起きたら、涙が出てくる」と言うくらい嫌がっていたのに、なぜ「行かない」と言わなかったのか。
あの頃の私たちは、どうも「保育園は行かなくてはいけないところ」と思い込んでいたふしがあります。


年長の時に初めて顔を合わせた幼馴染は、「『行きたくない』ってうそ泣きしたら『じゃあ行かなくていい』って言ってくれたよ」とケロッとしていました。
そうして、それまでまんまと逃れていたのに、小学校へ上がる前に共同生活に慣れておいたほうが…というご両親の考えから、一年間だけ保育園に通うことになったそうです。
幼稚園がなかったので、保育園がその代わりだったんですね。
たいていのお母さんたちはお勤めには出ていなくて、家で農業やら内職やらお店やらに精を出していた覚えが…。



前置きが長くなりましたが、そんな嫌で嫌でたまらなかった保育園での私の唯一のちいさな楽しみが、先生がたまに気まぐれにかけてくれるお話のレコード(テープだったかも)でした。
子どもたちがそれぞれ好きな遊びをしている時間にスピーカーから流れてきて、たいてい絵本を見ていた私は、お話が始まるとすぐにそちらに耳を傾けました。

その中のひとつに、死神にぼうやを攫われたおかあさんの話があって。

ぼうやを取り戻そうと、死神のあとを追うおかあさんが最初に出会ったのは「夜」でした。
「子守唄を歌ってくれたら死神の行方を教えてあげる」と言われ、彼女は「夜」のために子守唄を歌い続けます。
次に出会ったイバラには「私をあたためてくれたら教えてあげる」と言われ、血まみれになりながらイバラを胸に抱いてあたためます。
そうして辿り着いた湖で、「あなたの目をくれるなら、死神のいる向こう岸へ運んであげよう」と湖に言われ、両目を差し出すのでした。

この後、死神は、湖から取り戻した両目をおかあさんに返してあげたと思うのですが、結末がどうだったのか、さっぱり思い出せないのです。
あんなにいっしょうけんめい聴いていたはずなのに!


タイトルも作者も知らないこのお話が、アンデルセン童話の「ある母親の物語」だと知ったのは、ずっと後のことでした。
今、手元にある岩波書店版「アンデルセン童話集2」を読み返してみると、結末を覚えていなかったわけが解るような気がします。
4、5歳の子どもに、この結末はあまりに重く、そして深い…。


死は決して覆せないということ。
神の御心に背いて得るものは何一つないということ。
キリスト教の観念に基づいたお話だと思いますが、「死は覆せない」という点において宗教の壁はありません。
宗教以前の、議論する余地もない世の理です。
でも、それが真理と解っていても、やはりこの母親が哀れで。
魂を引き千切るように絞り出した、死神への最後の願いが、胸に痛いのです。


結末を知った時、私は本当にこのお話を保育園で聴いたのかどうかがあやしくなってきました。
こんなお話、保育園児に聴かせるかなぁ…?
でも、確かに「読んだ」のではなく「聴いた」という覚えがあるのです。
もしかしたら、どこか別の場所で聴いたお話を保育園で聴いたものと思い込んでいただけかも。
ひとは無意識に自分の記憶を改ざんすることがあるらしいので。

それにしても、保育園でのたったひとつの楽しみだったと思っていたものが、そうではなかったかもしれないなんて…。
あの頃の私が余計にかわいそうに思えてきました(泣)


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[2009/03/19 15:58] その他の童話 | トラックバック(0) | コメント(2) | @
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コメント
--記憶の改ざん・・・--
そういうのがあるのかもしれませんね、無意識に自分の記憶を・・・。
無意識だから そのことが全てありのままだと思ってしまったりしてしまってることが多くて・・・^^; 記憶とは そんな不思議とも思えることをしてしまうんですね^^
凄い気づきだと思います。
[2009/03/20 06:15] URL | 1xclick #- [ 編集 ]
--1xclickさま--
記憶の改ざんというのは、以前どこかで聞いた話です。
人間の脳ってほんとに不思議ですよね。
そうなると、誰の記憶も正しいとは言い切れないということで、確かなものなど何もないような、自分の足元も覚束ないような気持ちになります。
でも、その時の自分の感情だけは本物。
この場合、私が保育園大キライな子どもだったのは間違いありません^^;
[2009/03/20 15:32] URL | asagi #9kA7E2gM [ 編集 ]
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