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佐藤亜紀「雲雀」
雲雀 (文春文庫)雲雀 (文春文庫)
(2007/05)
佐藤 亜紀

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「王国」「花嫁」「猟犬」「雲雀」の四編から成る、「天使」の姉妹編です。
以前書いた「天使」の記事はこちらから。


「天使」では詳しく書かれていなかったジェルジュの両親の事情や、
ジェルジュの実父グレゴールと養い親であるスタイニッツ男爵との因縁も明らかにされます。


とはいえ、「天使」を読んでからずいぶんと経っているので、覚えていないことも多々あり。

最初の「王国」で挫折しそうになりましたが、「いやいや、せめてジェルジュが登場するまでは頑張ろうぜ、自分!」
…と思って読んでいるうちに、夢中になりました。


そうそう、こういう文章を書くひとだった!
説明というものをぎりぎりまで削ぎ落としたような文章なんですよ。
時代背景や、作中では「感覚」と呼ばれる特殊能力、果ては人物の容姿に至るまで、説明がほとんど無い。
でも、読んでいるうちに慣れてきて、見覚えのない人物名に「前に出てきたっけ?」と焦って、いちいち前のページに戻って読み返すなんてこともなくなります。


ところで、前から思ってたんですが、「天使」のアオリ文句「堕天使たちのサイキック・ウォーズ」っていうの、なんとかならないんでしょうか。
あまりに語弊がありすぎる…。
サイキック・ウォーズなんて言うと、ド派手な超能力バトルが繰り広げられるSFアクションみたいに聞こえるじゃありませんか。
いや、超能力者が暗躍するならジャンルはSFになるのかもしれないけど。

でも、例えば梨木香歩さんの「家守綺譚」を、河童や桜鬼や竜が出てくるからといって「ファンタジー」とは呼びたくないのと一緒で、「天使」や「雲雀」を「SF」とは呼びたくない。
なんだか、そういうジャンル分けが似合わないんですよ。
寧ろ、硬質な文体は純文学に近いような気がする。

それに、ジェルジュをはじめとする超能力者たちは、堕天使ではないでしょう…。



閑話休題。

「王国」は「天使」の時間軸の中のお話で、
「花嫁」は「天使」より前、ジェルジュが生まれる前の、父グレゴールと母ヴィリの物語。
そして、「猟犬」と「雲雀」は「天使」の後です。

ひどい父親だと思っていたグレゴールですが、「花嫁」を読むと、ちょっと同情してしまう。

「あなたが好きよ、グレゴール」
「おれが出て行くから言うんだろ」
「そうだけど、でも好きよ」


この辺りの、ふたりの会話が好き。


「猟犬」では、ジェルジュがかつてボスニアで出会ったヨヴァンが、「狂犬」なんて物騒な異名をぶら下げて登場。

もっとも、ヨヴァンがジェルジュに向ける憎悪は「可愛さ余って憎さ百倍」の類だったようで。
負けを認めてからのヨヴァンは「君には勝てないのかな」なんて、妙に可愛いことを言ってくれて潔い。

そして「雲雀」

1話目の「王国」でジェルジュに拾われたオットーとカールの兄弟が、ここで再び登場します。
前線の兵士だった彼らが、ジェルジュの部下になって内勤に精を出してる!
しかも、兄のオットーはなかなかの切れ者です。


養い親のスタイニッツ男爵を看取り、全ての後始末を終えたら消えるつもりのジェルジュ。
スタイニッツの仕事をそのまま引き継ぐこともできたけれど、彼にそのつもりはありません。
ただ、ジェルジュが今までやっていた「仕事」の内容が内容だけに、辞めるなんて言ったら別の意味で消されかねない。
スタイニッツには死ぬ間際まで心配され、今はオットーやカールを心配させているというのに、当のジェルジュは焦るそぶりもなく。


ここでギゼラが出てきたのは意外でした。
大公の姪だっけ?というくらいしか記憶にありませんでしたよ。
およそ何に対しても執着のなさそうなジェルジュが、まだギゼラを好きだったというのも意外。


ようやく自由になったジェルジュとギゼラの道行きを助けてくれたのはオットーとカール。
なるほど、あの有価証券はガソリン代か(笑)


タイトルの「雲雀」は、ジェルジュのことですね。
「感覚」という翼があっても決して自由には飛べなかった彼が、やっと羽ばたいた夏の空。

真夏の小鳥は木漏日のように輝くのだそうです。


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テーマ:小説 - ジャンル:小説・文学

[2009/07/10 11:32] 佐藤亜紀 | トラックバック(0) | コメント(4) | @
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コメント
--また…--
これがまた…興味深くレビューを書くんだもんな~(ハハハハハ)
もう、天使と雲雀、両方一気に読まねば…
気がおさまりませんや(笑)

>「あなたが好きよ、グレゴール」
「おれが出て行くから言うんだろ」
「そうだけど、でも好きよ」

そうだけど…(アハハハハハハ)
小説を読んでないので…ココだけ読むと
ツッコミ入れたくなるような会話だの(笑)

読むのは何時になるかは解らんが…
とりあえず本箱に入れときたいんで
買うど~~~(笑)
[2009/07/10 15:43] URL | 満天 #- [ 編集 ]
--満天さんへ--
こんにちは♪

満天さんに読みたいと思ってもらえるなんて、嬉しいな~(*^^*)

例の↑あれはですね、ほんとに好きなんですよ^^
ただ、彼女には立場とか意地があって、そこに自尊心も綯い交ぜになって、もう二度と会うことはないだろうっていう状況でないと、「好き」とは言えないんです。

「天使」はね~、第一次世界大戦前後のヨーロッパ情勢に詳しい人ならもっとおもしろく読めると思うんですよ。
残念ながら私の場合、世界史は近世に近づくほど記憶に残ってないので(^^;

満天さんのレビューが楽しみだなぁ^^
[2009/07/10 18:33] URL | asagi #9kA7E2gM [ 編集 ]
--ファンタジー?--
こんにちは。
ジャンルって難しいですよねぇ。
ファンタジーとかSFですって紹介されてしまうとそれだけで嫌煙するんですけど、
天使とか妖怪とか、人でないものが出てくる作品が、実は好きだったりします。
でもカタカナ苦手だから、へんなところでムズカシイ私。

薔薇下、読み終わりました。
またしても読後すぐ読み返して、ようやく理解して2度泣けました。
子供を主役とするには悲しすぎる話でしたけど、
いいお話でした。
よい本を紹介していただいてありがとうございました☆
[2009/07/18 16:21] URL | さくら #- [ 編集 ]
--さくらさんへ--
さくらさん、こんにちは♪

>天使とか妖怪とか、人でないものが出てくる作品

私も好きです^^
だから「家守綺譚」とか「蟲師」とかにハマるんですよね~。
カタカナ苦手っていうのもわかります!
舌噛みそうな横文字の名前って、誰が誰だかわけわかんなくなってくるっ!
いえ、そのわりに「天使」と「雲雀」は読んだんですけどね(^^;

>薔薇下

読んでくださったんですか~!
ありがとうございます^^

私は好きなんですが、紹介はしたものの嫌な気持ちになるひともいるかも…と、ちょっと不安だったんです。
さくらさんに「いいお話」と言っていただけてよかったです^^


[2009/07/18 17:11] URL | asagi #9kA7E2gM [ 編集 ]
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