太陽の夫人Vol.2 錬金術師の館
錬金術師の館 (太陽の夫人 Vol.2)(Best choice)

「金の冠通り」の続編です。
「金の冠通り」は主人公が誰なのか曖昧な印象でしたが、この「錬金術師の館」は間違いなくボナデアが主役。
そして、前作とはうってかわって幻想的です。


グリーパンデル館に住む外国人 ツリアムの助手として働くことになったボナデアは、夢とも現ともつかない不思議な体験を重ねてゆきます。
魔術師だと噂されていたツリアムは、実は錬金術師で、優秀な助手を探していたのでした。
助手には、自由な魂と強い意志を具えた人間が必要だったのです。



何年も前に読んだ桐生操さんの著書の中に、中世ヨーロッパの錬金術師に関する記述があって、その時は単純に「金が作れるわけないじゃない」と思いました。
だって、金って元素ですよ…。

でも、錬金術師が研究していたのは何も金を作ることだけではなかったらしく。


錬金術とは、最も狭義には、化学的手段を用いて卑金属から貴金属(特に金)を精錬しようとする試みのこと。
広義では、金属に限らず様々な物質や、人間の肉体や魂をも対象として、それらをより完全な存在に錬成する試みを指す。
錬金術の試行の過程で、硫酸・硝酸・塩酸など、現在の化学薬品の発見が多くなされ、実験道具が発明された。
その成果は現在の化学にも引き継がれている。
歴史学者フランシス・イェイツは16世紀の錬金術が17世紀の自然科学を生み出した、と指摘した。(Wikipediaより)


…ということらしいです。

このお話の錬金術師ツリアムが狂おしいほど求めていたのは、黄金ではなく知識でした。
金属としての金を「死んだ金」と呼び、「生きた金」が欲しいと言います。


「死んだ金が何だというのだ。
わたしのほしいのは生きた金だ……炎の魔術だ。
人間のおろかさと、人間の病をいやす最高の知識だ。」



そんな学者肌のツリアムですが、研究には莫大な資金が必要なため、金を作ることを条件に市会議員のクリンコスから出資を受けています。


館の地下室には様々な書物や実験器具が並び、壁には「太陽を飲み込む緑の獅子」の絵が飾られ、まさに錬金術師の研究室といった風情。

ここでボナデアが体験するのは、信じられないことばかり。

ある時は、研究室から一歩も出ていないのに、いつの間にか巨大な岩壁のふもとにいて、その岩棚に作られた火のハゲタカ(不死鳥のこと?)の巣から卵をとってきたり、

またある時は、炎の中で仔猫のように戯れ、お互いの尻尾を噛み合うサラマンデル(火蜥蜴)を見たり…。


そして、クリンコスに催促されたツリアムが金を作ろうと危険な実験に及んだ夜、事故が起き、ボナデアの魂は身体から離れて宇宙を漂い、地球を俯瞰するのでした。
これは、実験の最中にボナデアが直感的に「いけないことだ」と覚り、ツリアムに言われたこととは逆のことをしたためです。(ツリアムはそのことを知りません)


やがて、「帰りたい」と強く願ったボナデアの魂は無事に身体に戻りますが、その時、ツリアムは両眼を失っていました。
が、金を作ることに失敗し、自身は両眼を失ったにも拘らず、ツリアムはなぜか満足そうです。


「わたしは、ついに追い求めてきたことを達成したのだ。天の炎の魔法だ。
終わってみれば、なんとかんたんなことだったんだ。すべては光だ。
これは説明不可能な真実だ。言葉では表現できない。」



彼は両眼を代償に、追い求めていた真理に限りなく近づいたのかもしれません。


ボナデアが最後まで言われた通りにやっていればこんなことには…と、ツリアムが気の毒になりましたが、もしかすると、実験が成功していたら二人の命はなかったのかもしれないと、ふと思いました。

ツリアムは「意志の力なしには、誰も魂を繋ぎとめておくことはできない」とも言っていましたが、意志の強いボナデアだからこそ帰ってこられたのかもしれません。



結局、この巻でもボナデアが何者なのかはわからず終いでしたが、グリーパンデル館に移る前はパン屋の屋根裏部屋に住んでいたことと、船乗りの恋人がいることだけはわかりました。
年齢が書かれていないもので、私は漠然と11、2歳くらいかな~と思っていたのですが、恋人がいるというなら14、5歳といったところでしょうか。


「金の冠通り」でハルテル家のお父さんがしてくれたお伽噺は、ツリアムとボナデアのことだったようです。


そのハルテル家では、お母さんのエマが病に倒れ、しばらくの間 子どもたちと離れて暮らすことになりました。


この巻でも、例の実験の後でボナデアが思いついたこととか、伏線らしきものが見られるのに、続きは読めないんですよねぇ…。

例の殺人事件の犯人もわかっていないし、エマがちゃんと子どもたちのところへ帰ってくるのかとか、クルッレさん一家のその後とか、ツリアムと忠実な召使いグンナの行方とか、気になることは多々あります。

シリーズのタイトル「太陽の夫人(ソーラ夫人)」は、やっと、子どもたちの遊びの中に名前が出てきました。



同じ福武書店から出ていた荻原規子さんの勾玉三部作は、勾玉という共通点はあるものの時代が違っていて、それぞれ独立した作品として読んでも何ら不都合はなかったのですが、この「太陽の夫人」は、完結編を読んでみないことには評価し難いです。
物語がどういう方向に向かっているのか、まるで見えてきません…。


参考までに、巻末の 日本の読者に向けた作者リリウスのメッセージの一部を。


「わたしは、ボナデアがこれから、だれも経験することのないような、偉大な運命を生きていくように思えます。」


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[2009/11/22 22:57] イルメリン・サンドマン・リリウス | トラックバック(0) | コメント(0) | @
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